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真由美の一日(11) 

カテゴリ:偉大なる助平

「あ、あれ? 親父?」
 リビングに降りてきた好男の顔色が変わった。
 背後にはふわふわ髪がさらに乱れた美琴が小さくなっている。
「おお、好男か、帰ってたのか。そちらのお嬢さんはガールフレンドか?」
 ソファにどっかり身体を沈めた極太がわざとらしく言う。その手には缶ビール。
「こ……こんにちは……はじめまして……」
 消え入りそうな声で美琴があいさつする。内股になっているのは、股間の違和感が取れないためか。
「かわいい子じゃねえか、好男、でかした!」
 親指を立ててウィンクする極太。
 むろん、好男にはそれに対して切り返す余裕などない。
「ま、真由美まで!? な、なんで」
 真由美は好男と美琴を見るに忍びなくて、ソファで小さくなっていた。
「ああ、真由美ちゃんとは家の前で会ってな。久しぶりだからお茶でもって誘ったんだ」
 実際、その通りなのだが――
「いやあ、話が盛り上がってな。今日は久しぶりに泊まっていけば、って言ってたんだ」
 それもその通りだ。ただし、中出しされながらだが。
 真由美は否定も肯定もできず、ただ、うつむいていた。
「え……あ……そうなのか……?」
 好男は驚きつつも、どことなく嬉しそうに真由美を見た。
「そっか。じゃあ、おれ、美琴のこと、送ってくから――あとでな、真由美」
 美琴は真由美に不審そうな、少し責めるような視線を向けた――それも一瞬で溶けて――
「真由美ちゃん、またね……おじさん、お邪魔しました」
 丁寧に頭を下げて暇を告げる。好男に続いて玄関へと移動する。
「へっ、ありゃ、なんか気づいたな」
 好男と美琴が家を出ていく気配がして――極太が楽しそうに言う。
「あのガキ、おとなしそうな顔して、けっこうなタマだぜ? 真由美ちゃんが最大のライバルだとちゃんとわかってる」
「美琴はそんな子じゃ……」
「真由美ちゃんだって、そんな子にゃあ見えないぜ?」
 真由美を抱き寄せる。抵抗できない。下半身はまだ痺れている。極太の特濃注射のせいだ。
「好男くんが帰ってきたら――」
「かまわねえ、未来の母親が父親と仲良くしてるだけさ」
 抱きしめて、キスしてくる。
「そ、その話は――」
「真由美ちゃん、イキながら何回もケッコンするって言ってたぜ? おれは約束は守る男なんでな。ま、当面は週一くらいでウチに泊まりにくるだけでいい。それくらいなら大河原もOK出すだろ」
 極太が言う「大河原」とは真由美の父親のことだ。極太と真由美の父は幼なじみなのだ。
 真由美の父は、真由美が色事家に入り浸ったとしても何も言わないだろう。まさか自分の娘が幼なじみに種付けされているとは思うまい。
「そのうち、真由美ちゃんの腹が大きくなってきたら、ちゃんと話すさ」
 本気で極太は言っている。実際にそうするだろう、このひとなら。そして認めさせてしまう、きっと。
「やっぱり、帰ります!」
 真由美は極太から離れた。走って玄関に向かう。極太は追ってはこなかった。
 靴を履いて外に出たところで、帰ってきた好男とハチあわせた。
 好男の息は弾んでいる。走って戻ってきたらしい。
「な、なんだよ、帰っちまうのか?」
 驚いたように好男が言う。
「せっかくなんだから、泊まってけよ。真由美にいろいろ話したいことがあるんだ――最近、おまえ元気ないみたいだし、おれでよかったら――」
 好男の表情は本気で真由美のことを心配しているようだった。
 そうなのだ。スケベでバカで優柔不断だけど、コイツは友達が沈んでいたら励まさずにはいられないヤツなので。だからわたしは――
「ごめんね」
 好男の横をすりぬけて真由美は走った。
「お、おい、待てよ」
 好男が追いかけてきたが、あっさり振り切った。追いつけないと悟った好男がしょんぼりと引き返していくのを確認してから真由美は速度を緩めた。


 帰宅――

 もうすぐ家に着く。
 ようやく今日という日が終わる。
 家に戻ったら、もう何もしたくない。泥のように眠りたい。
 でも、お腹の中にたまった精液をなんとかしないといけない。お風呂に入って――掻き出さないと――
 いったい何人ぶんの。
 ――いや、何十人ぶんの。
 柔道部員たち、OB――
 長崎、小出――
 今日は手を出してこなかったが、教師数人とも関係を持っている――
 また、学校の外にも真由美の身体を知っている男たちがいる――映画の撮影で乱交させられたり――
 そして、極太。彼はまずい。身体をとろかされる。誘われたら拒めない。
 ほんとうに週一で泊まりに行くようになるかもしれない。
 それが真由美はおそろしい。
 自分はいったいどうしてしまったのか。そして、どうなっていくのか。


「久しぶり、大河原さん」
「え、あなたは……」
 目の前に立っている少年。
 そこは真由美の家の真ん前だ。だが、なにかが違う。もう街灯がつきはじめる時刻なのに、ぼうっとして暗いままだ。でも、周囲はよく見える。
 まるで、空気そのものがほのかに光っているような。
 その光の中心に「かれ」はいた。
 たぶん、真由美と同世代――中学生だろう。大人っぽい容貌に理知的なメガネ。それだけなら高校生といってもおかしくないが、絶対的な線の細さ、未成熟さがある。
 おそろしいほどの美少年だ。真由美の趣味ではないが――好男とつきあい出す前の美琴なら一発で気に入ったのではないか。
「あなた、だれ……?」
 そう訊いてしまうのは、真由美には確信があるからだ。
 自分はこの少年を知っている。
 でも、わからない。思い出せない。
「この時空では初めてなのかな……いや、そんなことはないはずだよ。期間は短かったけど、最近までクラスメートだった」
 少年は謎めいたことを言う。
 クラスメート? 最近まで? そんなことは――
 でも、たしか、転校生がいた。名前も顔も覚えないまま、また転校していったはず――だが、そんなことってあるのだろうか。何ヶ月も同じ教室にいたのに、何も覚えていないなんて――」
「干渉があったんだね。だろうな。やつらならそれくらいはするだろう」
「なにをいってるの、それに、あんたは――痛ぅっ」
 真由美は頭痛に襲われて額を手で押さえる。頭が割れそうだ。
「大河原さんが思い出せば、このループは破壊できる。ぼくのことを思い出すんだ」
「なにをいってるのか……からない」
「未来は選べるんだ。きみがいるべき未来がこんな世界で本当にいいのかい?」
 少年は言う。励ますように、そして、いざなうように。
「いいも悪いも……ないじゃない……こんなふうに……なって……どうしろってのよ」
 頭の痛みに苛まれながら、真由美はつぶやく。
「みんな……あんたの……せいじゃ……ないの」
「そう。ぼくが原因を作ったのは事実だ」
 少年が声を落とす。真由美は自分の言葉に驚く。なぜ、あたしは見ず知らずの相手を責めてるの? 映研の連中とのことも、部活のことも、極太とのことも――全部自分が招いたことじゃないの?
「きっかけは、あの映画だった。ぼくは好男くんときみのことをくっつけるつもりだった。だが、うまくいかなかった。でも、それはそれでいいと思ったんだ。人間同士の愛情のさまざまなかたちが見られて、いいサンプルだとさえ思った。だが、それは間違いだった」
 本気で悔いている雰囲気が伝わってくる。
「ぼくはあまりに無知だった。人間について、生殖について、そして、愛について」
 セリフだけ取ればあまりに陳腐で薄っぺらい。だが、その言葉の裏には確かに実体を持った「想い」があった。
「だから、いくつもの規約をやぶってぼくはここに来たんだ。もうひとつの可能性を摘み取ってまでして――ぼくはこの身体を取りもどし、時空を改変した」
「いったいなにを言ってるかわかんないよ、ひろひ……」
 言いかけて真由美は声をのむ。
 なんと呼びかけようとしたのか、目の前の少年の名前なのか、それとも――
「思い出すんだ、大河原さん、そして選ぶんだ、自分の進むべき道を。そうすれば、きっと――」
 少年の姿がかすんでいく。時間が来たのか、魔法が終わったのか。
「また、会おう、大河原さん。できることなら、色事くんと一緒に――」

 そうだ、かれの名前は――



 目覚まし時計が鳴るぴったり一秒前。
 真由美は時計の裏側にあるアラームスイッチをオフにした。
 時針と分針がほとんど180度に開いている。つまり午前六時。
 淡い黄色のパジャマを脱ぎ、14歳、中学二年生の裸身を春の空気にあてる。
 まだこの時間帯だと肌寒いものの、震えるほどではない。
 手早く身につけたのはトレーニング用のシャツとスウェットパンツ。それにウィンドブレーカーを羽織る。
 家の中は静かだ。
 外はもう明るい。4月も半ばを過ぎればそんなものだ。
 日課のランニングだ。大会も近づいている。ピッチをあげていかなくては。それでなくとも最近は悩み事が多いのだ。
 いつものコースを一周すると、ほぼ5キロ。真由美はそれを20分ほどで走りきる。
 ランニングを終え、帰宅してすぐにシャワーを浴びる。そのころには両親も起きていて、朝食の支度が始まる。
 父親はさえないサラリーマンで、いつもにこにこ笑っているような人だ。まじめなこと以外、特にとりえがない。母親は快活な女性で現在も五種類以上の習い事をしつつ、パートでも働いている。たぶん自分は母親似だろうな、と真由美は思っている。
 そんな両親と他愛のない会話をしつつ朝食を採り、家を出るのは7時。学校へは徒歩で15分ほど。7時30分からの朝練には十分間に合う。

 通学路の途中に色事家がある。何の変哲もない二階建ての家屋。以前は頻繁に遊びに行っていて、泊まったことも数え切れないくらいだ。その二階の窓に目をやる。その部屋には幼なじみで同級生の好男がいるはずだ。この時間なら確実に寝ているだろう。いつも遅刻ぎりぎりで、走って教室に飛び込んでくるのだ。
 その色事家には母親がいない。父親の極太と妹の沙世と好男の三人家族。
 ――よしおくん、おはよ
 心の中でそう告げて、真由美は早足で駆け出す。
 きっと学校ではふざけてしか話せないから。

 ここのところ、転校生とばかりつるんで、ろくなことをしていないようだし――
 その転校生に美琴が一目惚れしちゃったから、さらにややこしいのよね――

 その転校生のことを思い浮かべる。
 なぜか懐かしい気がする。そんなに親しいわけでもないのに。

 でも、学校に着けば、きっと会える。かれに。謎の転校生、助平努に。
 

                     ループ・リセット

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